こんにちは。日本が明治時代だったころに造られたタンク貨車が、日本に残っているって知ってましたか？今回は、100年以上の時代を経て奇跡的に再発見された日本最古のタンク貨車「タ600」の軌跡をご紹介します。

日本最古のタンク貨車は明治に生まれた

△戦前の絵葉書の写真に写っているア1951形「ア1967」（後のタ600形）
※写真は1920年代に撮影されたものと推定され、既に著作権は消滅していると思われる。

日本で最初に鉄道が開通したのは、まだ明治時代の1872年のことです。そしてそこから数十年の間に日本全国に鉄道網が張り巡らされ、鉄道は日本の産業の発展に貢献しました。そうした鉄道網の発展と工業化に伴うエネルギー需要の高まりで、鉄道による貨物も輸送進むこととなります。そうした中生まれたのが、今回ご紹介する日本最古級のタンク貨車です。

日本最古級のタンク貨車「ア1900形」こと後の「タ600形」は、1890年代に「サミュエル・サミュル商会」がイギリスの「ハーストネルソン社」に製造を発注し、輸入したものです。所有者は「ライジングサン石油」（「昭和シェル石油」の前身企業）で、東北地方などで石油輸送に従事しました。現在も日本の貨物輸送ではタンク貨車は多く使われていますが、当時はまだ輸送量はそこまで多くなかったようで、長さ4.6m、直径1.9mと現在よりもかなり小型でかわいらしい姿をしています。ア1900形貨車は昭和期の1928年に他の形式の貨車とともに「タ600形」と形式名が改名されます。

△平成以降使用されているタンク貨車。明治期のタンク貨車より大型化している。

このタ600形貨車は明治から昭和の激動の時代を生き延びた訳ですが、昭和期になると新型の貨車に置き換えられていきます。ア1900形貨車を前身とするタ600形貨車がいつ頃廃車になったかは不明ですが、タ600形貨車は1972年に形式消滅しているので廃車となったのはそれよりも前ということは確実と言えます。

資料によるとア1900形貨車は17両が輸入されたようですが、廃車後にこれらの最古級のタンク車たちがどうなったかは不明でした。おそらくは大半が解体され、再利用されたと考えられます。資源が貴重な時代ですから軍事物資として転用された可能性もあります。

日本最古のタンク車、奇跡の再発見

お役御免となった後、戦後の混乱に紛れて行方不明となり、人々の記憶からも消えかけていた日本最古級のタンク貨車。そのタンク貨車は製造から約100年の時代を経て奇跡の再発見を成し遂げることとなります。

△2019年のストリートビューに映りこむタ600の廃車体

実は行方不明となっていたタ600形貨車（旧ア1900形）のうち数両は、廃車後に第二の人生を送っていたのでした。このうちの1つは、石川県七尾市のある「共立商事」という会社で石油保存用のタンクとして再利用されていました。こうして奇跡的に解体を免れたタ600形は、ひっそりと余生を過ごすことに。タンクを再利用目的で買った会社の人も、まさかこのタンクが日本最古級の貴重なものとは知らなかったでしょう。

製造から約100年が経過した1998年、当時大学院生であった「浦田慎」さんが七尾周辺の廃線巡りをしていたようです。すると、たまたま共立商事の近くを通った浦田さんがこのタンクに気づきます。このタンクがもともと貨車であったと感づいた浦田さんが、寸法と形状を調べると何とこれが日本最古級のものであると判明するのです。

浦田さんは、鉄道ファンの同人誌「レールマガジン」のコーナー「トワイライトゾ〜ン」（現在は終了）にこのタンクの記事を寄稿。同形式の貨車が現役だったころの写真なども見つかり、こうして日本最古級のタンク車が現存することが再発見されることとなり、全国の貨車マニアが衝撃を受けました。

「貨物鉄道博物館」で保存されることに！

製造から約100年の時を経て再発見された「タ600形」。発見後は、共立商事の社員さんたちもタンクの歴史的価値を知り、解体したりはせず七尾の地で大切に保管されていました。

しかしいつまでも民間企業の地で保存できるわけではありません。共立商事は敷地内で工事を行うこととなり、タ600形のタンクを処分することにしたのです。しかし共立商事はタンクの貴重性を理解していたので、処分に際しては無償の引き取り手を募集します。そして三重県いなべ市の「貨物鉄道博物館」が、このタ600の引き取りに名乗りを上げ、無事保存されることが決定されました。

こうして120年の時を経て無事安住の地を手に入れたタ600形貨車。2024年度以降は、車体と足回りの復元も行われるようで現役当時の姿に戻ることになるようです。1世紀以上にわたり日本を見守っってきたタ600形。今後も末永く活躍してほしいですね。